量子アニーリングの理論を学んでみる-その2量子アニーリングを語るための数学的準備(数式)

量子アニーリングの理論を学んでみるシリーズ

量子アニーリングの理論を学んでみる-その1最適化問題とイジング模型(数式)

の続きです。

前回、最適化問題を量子アニーリングの手法で解ける、つまり最適化問題はイジング模型の基底状態を求めることに帰着できることを学びました。

次の記事では、量子アニーリングの手法でどのように計算するか、具体的にどのようにして基底状態を求めるのかを説明します。

まずこの記事で、そのために必要な程度に、量子力学を簡単に説明します。量子力学をある程度知っている人は、あまり読む必要はないかもしれません。下の()は興味のある方だけ読んでください。

 

(個人的に、論理を誤魔化して議論を進めるのが好きではないので、一応これを書いておきます。量子力学では、ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)における抽象的なベクトルの元として、系の状態を表現します。物理量は、ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)の元に対する作用素として定義されます。ただ、この記事では元が非可算無限個ある状態空間(例えば、粒子の運動)を考える必要がないので(可算無限でさえも)、この抽象的なベクトルは馴染み深い、普通のベクトル\(\mathbb{C}^N\)に対応付けて考えることができます。この場合、作用素は行列で表現できます。とくにスピンに関しては、状態空間の次元がたったの\(2\)なので、\(\mathbb{C}^2\)ととることができます。他の量子コンピュータの教科書を見てみても、量子力学の枠組みに関してはこの記事の程度の説明です。詳細は、「現代の量子力学 J・Jサクライ」などが詳しいです。以下は、このような枠組みのもとでの状態の一つの表現形式であり、多くの量子力学の教科書で採用されています。)

 

これから量子力学を語るために、まずはそのための言葉を準備しましょう。

\(z\)方向のスピンの\(\pm1\)に対応するベクトルを、

\[\mid \uparrow \rangle=\begin{pmatrix} 1\\0\end{pmatrix},\mid \downarrow \rangle =\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}\]

とおきます。

次に、パウリ行列と呼ばれる、スピンを表現するための行列を導入します。

\[\sigma_z=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 &-1\end{pmatrix}\]

これを、上で導入したベクトルたちに作用させると、

\[\sigma_z \mid \uparrow \rangle=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 &-1\end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1\\0\end{pmatrix}\]

\[\sigma_z \mid \downarrow \rangle =\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 &-1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}\]

となりますから、これらは固有値\(\pm1\)に対応する固有ベクトルになっていることがわかります。この固有値こそ、スピンの実際にとりうる値を表しています。

これら固有ベクトルの、規格化された(\(\alpha^2+\beta^2=1\)とした)線形結合

\[\mid \psi \rangle =\alpha \mid \uparrow \rangle+\beta \mid \downarrow \rangle \]

は、状態の重ね合わせを表現します。

規格化とは、全体の確率を\(1\)にするためのものです。今まで例に挙げてきた状態ベクトルも、全て規格化されています。実は、このベクトル\(\mid \psi \rangle\)に現れた\(\alpha^2\)は上向きスピン、\(\beta^2\)は下向きスピンを観測する確率になっています。それが量子力学の枠組みです。規格化とは、これらの和が\(1\)になるように設定することです。(正確には、一般に係数\(\alpha\)は複素数のため、係数の絶対値の二乗\(\mid \alpha \mid^2\)です。)

また、\(x\)方向のスピンを表す行列

\[\sigma_x=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ 1 &0\end{pmatrix}  \]

を導入します。

この行列の\(\pm1\)に対応する固有ベクトルは、
\[\mid + \rangle=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\mid – \rangle=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}\]

です。確認してみてください。

\(\sigma_y\)も、もちろんありますがここでは使わないので省略します。

 

また量子力学の枠組みにおいて最も重要な仮定、時間に依存する状態ベクトルのシュレディンガー方程式は、

\[i\frac{\partial}{\partial t}\mid \psi(t)\rangle=\hat{H}(t)\mid\psi(t)\rangle\]

です。

時間に依存しないシュレディンガー方程式は、

\[\hat{H}\mid\psi\rangle=E\mid\psi\rangle\]

です。

詳しい解説は量子力学の専門書に譲りますが、これらの式にそこまで深く立ち入る必要もないので、これで十分でしょう。

量子アニーリングの理論を学んでみる-その3実際に、どのように量子計算を実行するのか(数式)

に続きます。