量子アニーリングの理論を学んでみる-その3実際に、どのように量子計算を実行するのか(数式)

前々回では、最適化問題を量子アニーリングの手法で解ける、つまり最適化問題はイジング模型の基底状態を求めることに帰着できることを学びました。

前回では、この記事の理解に必要な、多少の量子力学を解説しました。

この記事では、実際に、どのようにして量子アニーリングの計算を実行するのか、つまりイジング模型の基底状態をいかにしてもとめるかを解説します。

量子アニーリングの理論を学んでみる-その2量子アニーリングを語るための数学的準備(数式)

の続きです。

 

目標は、イジング模型

\[\hat{H}_0=-\sum_{i<j}\hat{\sigma}_i^z \hat{\sigma}_j^z\]

の基底状態を求めることでした。ちなみに量子力学では、表現したいものがただの数ではない(演算子や行列など)であることを強調するため、上に\(\hat{}\)をつける習慣があります。

そこで、時間とともに変化するハミルトニアン

\[\hat{H}(t)=-\sum_{i<j}\hat{\sigma}_i^z \hat{\sigma}_j^z-\Gamma(t)\sum_i^N \hat{\sigma}_i^x=\hat{H}_0-\Gamma(t)\sum_i^N \hat{\sigma}_i^x\]

を導入します。

添え字\(i\)は、それぞれの電子(サイト)のみにしか作用しないことを表します。もとの\(z\)軸方向のみのハミルトニアンに加え、電子に\(x\)方向に磁場がかかっている状況と同じですから、横磁場イジング模型のハミルトニアンと呼ばれます。

初期状態として、\(\Gamma(0)\)が第一項に比べて十分大きい場合を選ぶと、ハミルトニアンは

\[\hat{H}(0)=-\Gamma(0)\sum_i^N \hat{\sigma}_i^x\]

となり、この基底状態は自明、それぞれのサイトの基底状態の積(複数のサイトの状態を同時に表しすためのもの。\(\otimes\)を用いる。)であるから、\(\mid +\rangle=\frac{\mid \uparrow\rangle+\mid\downarrow\rangle}{\sqrt{2}}\)を用いて、

\[\mid \psi (0)\rangle=\mid++\cdots+\rangle=\mid+\rangle_1 \otimes \mid+\rangle_2 \otimes \cdots \otimes \mid+\rangle_N=\prod_{i=1}^N \mid + \rangle_i=\frac{1}{2^{\frac{N}{2}}}\prod_{i=1}^N(\mid \uparrow\rangle_i+\mid\downarrow\rangle_i)\]

となります。

これは、

\[\mid \psi (0)\rangle=\frac{1}{2^{\frac{N}{2}}}(\mid\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\rangle+\cdots\mid\downarrow\downarrow\cdots\downarrow\rangle)\]

とも表せるように、サイト\(1\)から\(N\)までがそれぞれ上スピンか下スピンであるかの、全ての組み合わせ\(2^N\)個を等しく足し合わせたものです。もとめたいイジング模型のハミルトニアン\(\hat{H}_0\)を求めたいのだから、同じ重みの状態から出発するのは理に適います。

あとは、\(\hat{H}(t)=-\sum_{i<j}\hat{\sigma}_i^z \hat{\sigma}_j^z-\Gamma(t)\sum_i^N \hat{\sigma}_i^x\)における\(\Gamma(t)\)を徐々に\(0\)に近づければ、系は(状態ベクトルの時間に依存する)シュレーディンガー方程式

\[i\frac{\partial}{\partial t}\mid \psi(t)\rangle=\hat{H}(t)\mid\psi(t)\rangle\]

に従い、自然に、求めたいハミルトニアン\(\hat{H}_0\)の基底状態へと変化します。

各時刻において、\(\Gamma(t)\)の変化が十分小さい(これを、量子断熱と言います)ならば、各時刻における状態は、時間に依存しないシュレディンガー方程式

\[\hat{H}(t)\mid\psi(t)\rangle=E(t)\mid\psi(t)\rangle\]

と近似できる(ほぼ等しいと見なせる)から、基底状態の探索において、全ての時刻におけるハミルトニアンの基底状態をなめらかに移りながら変化していきます。

ちなみに、この近似ができる条件を、量子断熱条件と言います。

この条件の詳しい導出は、「量子アニーリングの基礎 西森秀稔 大関真之」を参照して下さい。